東京の家を出て、アルゼンチンに到着したのは、実に36時間後。時差12h、時間も季節も日本とは間逆にある。空港からホテルに荷物を預け、そのままこの地で行うイベントの最終の詰めをするため打ち合せへと向かう。ここでは、書の作品展示・講演・ワークショップ・現地ミュージシャンとコラボライブ・書(漢字)で名前を贈る、などを行う。コラボライブは、アルゼンチン伝統楽器「ケーナ」と太鼓と書のコラボ。日本へもコンサートに来る程有名なケーナ奏者「ラウル・オラルテ」さん。ケーナは「コンドルは飛んでいく」などの演奏でほとんどの人が耳にしたことがあるだろう。通訳を交えての打合せは、超プロフェッショナルな「ラウル」さんの感覚に助けられとてもうまく進む。私も彼も異なる言語を話しながらお互いその言葉を理解していることがかなり多かった。表現者同士の言葉を越えたコミュニケーション力は、今後も何度も経験できることとなる。全ての打合せが終了すると、この国でのイベントを主催してくださった日本文化センターの所長主催夕食会へと自宅に伺う。美しい満月を見ながら、おいしいアルゼンチンワインとお寿司をご馳走になる、サーモンはチリ産だ。このチリ産サーモンも今後各国で何度もお目にかかることになる。そして全ての予定を終えた23時になろうとする頃、折角なので本場のタンゴを経由し(超感動を抱え)ホテルに戻り、やっと長い初日を終えた。
翌日朝からウルグアイの人気番組に出演。着物や日本文化について話し書を披露。その後、夜の展示やライブ準備前の昼食に、南米料理「アサード」専門店へ。ご存知の通り、南米では牛肉を毎日のように食べます。アサードは、牛肉や鶏肉やチョリーソなどを、炭火で焼く料理。この料理法は脂が下に落ちるので牛肉をとても美味しく仕上げることができる。ウルグアイは、お肉が美味しいだけでなく、パンや飲み物(ワインもジュースも)も美味しい!そしてマテ茶を飲む。アルゼンチンの人も食後にマテを楽しんでいたが、ウルグアイの人はマテ茶セットを日常本当に持ち歩いているのには驚いた。茶葉とお湯の入ったやや大きめの器に金属製のストローのようなものを差し、それを飲みながら街を歩いているのだ。若者も老人もみんなそのマテ茶の器とお湯を入れたステンレスの水筒を持ち過ごしている。彼らは、日本人がお茶の入ったペットボトルを持って歩いてるのを見て、同じゃないかと笑うのかな。他にもウルグアイでは、懐かしの名車が街を普通に走っていたり。建築も素晴らしいので街歩きだけで十分楽しめます。また、この国には日本人やアジア人がほとんど居ません、「書」を伝えた最初の人物が私なのだそうです。この地でも、世界中に寿司や天ぷらがあるよう、日本の文化も伝わるといいな。
国立現代美術館では、作品展示(12点)・レクチャー・名前を漢字で書いて贈る・書のライブパフォーマンスを行う。現地の日本大使館の皆さんやサポート部隊の事前にご尽力が光ります!ライブパフォーマンスは美術館の閉館時間後にもかかわらず、観客席は直ぐに一杯、立ち見&直接床に席をとる人で会場は埋め尽くされました。レクチャーは、日本文化・着物・日本語・書・チリと日本の関係(チリワイン・サーモンや魚介類)・10円玉の銅・日本のトイレのテクノロジー力・日本で歌われているチリの歌・どのガイドブックにもチリ人は親切だと紹介されていることなど、1時間以上話が盛り上がる、(日本に興味を抱いてくれてありがとう)。 そして、書のライブパフォーマンス。来場者の集中した視線を全身に受け、大きな和紙の上で書を披露。続いては、「AKATOMBO」の演奏の中、壁面に音楽に合わせて書を書いていく、書き上げた言葉は奏でられている曲とコンセプトを合わせ故郷を想う日本の詞とチリの歌の歌詞の一部を対峙させた形で書き上げる。最後は、チリの皆さんに今日の出会いとこれまでの感謝を伝えようと、サプライズな演出。観客席に向けた真っ白な和紙、そこに最初はカラーでそして次は墨色が入り、どんどん文字が浮かびあがってくる演出、そして最後には、「Gracias Viva Chile!(日本語訳:ありがとう、チリ、ばんざーい!」の書体が完全に現れ、会場からわれんばかりの拍手がおこる。いろんな人の助けのおかげで、全てうまくいき、響き渡る量の拍手を全身に受け、日本的感謝の意を表すため頭を下げ一礼、顔をあげると、そこは会場全員によるスタンディングオベーションと拍手喝さいでした!・・・超感動で涙が流れました。 この後、チリ国立現代美術館に書の作品がコレクションされることになりました。足跡をひとつ遺すことができました。
帰国のための26時間の飛行(気圧)は、脳が変になることを科学的に実証できるのではないかと思うほど、帰国後、いろいろ変でした・・・。 これまでの日本での書家活動の多くの経験の中で感じてきた挫折や失敗が、この旅をやり遂げるための糧になっていたように感じます。本当にハードでやりがいのあるものでした。 全ての意義深い経験と時間、各国大使館の皆さま、サポートしてくださった現地の皆さま、日本でご尽力賜った方々、出会うことのできた皆さまに、深く感謝申し上げます。本当に、本当に、本当にありがとうございました。 またお逢いしましょう! 紫舟 2009年冬