紫舟 SISYU

MEDIA

『淡交』11月号

淡交社『淡交』2018年11月号

月刊の茶道誌『淡交』の「わたしの『名物』‐私的名物記‐」というエッセイ連載に、寄稿いたしました。
あらゆる線を生み出す、特注の筆について、そして表現者と道具の関係を書かせていただきました。


「難しい道具を使う」

 吉野山の筆職人は、ひとりで全行程をつく作りあげるといいます。

 一般的な書道筆は、イタチやタヌキなどの毛で作られた硬さと弾力がある短い筆。

 吉野山の筆職人が作る私の愛用筆は、その真逆。山羊の首辺りの最も柔らかくて腰がなく、細くて長い毛で作られています。筆の穂先の長さは九センチ、毛量は少量のみ。濡れると、細長いキリのようにも見えます。指を添える柄の部分は、直径五ミリ、長さは二十七・五センチ、筆の重量はわずか五グラム。

 日々扱ってなお、毎回難しさに襲われます。

 軽くて繊細な筆は、デリケートな指のゆれをすべて拾うのです。